8月2日の公開勉強会「インターネットと今後の途上国開発の関係を考える」が終わりました。ちょっと感想を書いてみます。
WSISやIGFなど、正直これまでは知っているようであまり知らない国連・国際社会でのインターネットに絡んだ動きを、きちんど順を追って(さらにその内情を含めて)理解することが出来た良い機会になりました。通信技術の評価は「それが世の中で広く使われたかどうか?」という明確な指標がある一方で、WSISのような国際会議や国連の取組の成果は何なんのか?という参加者からの質問が印象に残っています。
2000年頃、アメリカを中心にインターネットが普及していくなかで、「このままじゃ途上国が乗り遅れちゃう。どうにかしなきゃ。」というところから、国連がインターネットガバナンスの領域に足を入れてきたものの、いまだ技術の進歩の速さに、国連の体制や対応が追い付いていないという事実には非常に納得しました。途上国が取り残されて「先進国と途上国」の格差が広がるという課題に加えて、ジャスミン革命・アラブの春(もっとさかのぼると、サパティスタ民族解放軍も)に見られるような国家がネット上の表現の自由をどう取り扱うのかという「国家とネット」の課題、そして勉強会ではあまり言及はなかったですがサイバーセキュリティをどう担保していくかという「全世界」の課題と、様々が課題があり、そしてその前提となるテクノローは日々変わっていくという環境。これでは、国連の体制や対応が追い付かなくなるのもよくわかる気がします。でも、WSISの結果が期待外れなものだったとしても、「じゃ、こういった問題を国際社会で議論しなくても良いのか」といえば、議論すべきであるため、議論する場を提供したという点が(議論の結果や、その効率性ってところはもっと改善出来た余地があったのかもという点はおいておいて)少なくとも一つの成果なんだと思いました。
一方、会津先生からのファブラボのお話は、非常にワクワクするものでした。ICT4Dとどう絡んでくるのかな?と思った方もいるのか感じますが、個人的には、クリス・アンダーソンの「LONG TAIL」、「FREE」、「MAKERS」という本の流れから、すっと頭に入ってくるものでした。テクノロジー(インターネットに限定しないけど特にインターネット)を人々のエンパワーメントにどう使っていくかという方法・選択肢がどんどん増えて来ているんだと思います。これを先進国だけでなく、途上国の人々も同様の効果・メリットを得られるような取組・仕組みが今後ますます重要になっていくと感じます。
ICT4Dというと、遠隔教育とか、携帯電話を活用した農業情報提供サービスとか、遠隔医療など、どうやってICTを活用したら良いのかということをトピックにすることが多く、このブログでも多くがそういうトピックでした。でも今回の勉強会では、その一つ上の視点で、誰がどうやって「ゲームのルール」を決めるのか?、そして、今後そのゲームの舞台がどう変わっていく可能性があるのか?、そしてそのゲームに途上国はどう絡んでいけるのか?、という点に視野を広げることが出来てとても勉強になりました。そして、ICT分野は日進月歩でその深度と領域がどんどん深く広くなっていく分野なので、追い付くのが大変という一方で非常に可能性があるのが面白い!と改めて感じた勉強会でした。関係者の方々にとても感謝しています、どうもありがとうございました。
コメント
ちょうどWSISジュネーブ会議(2003年12月)の頃に、某独立行政法人に出向してました。当時、文書掲載を申し込むのに「独立行政法人」に相当するステータスを設定するのに苦労した情けない記憶があります。
あの頃は、2000年の九州沖縄サミット前後に日本が表明した150億円の包括的協力策の具体化に伴って(予算がついたから)猫も杓子もODAの中でITを「語っていた」時期ですね。2001年の国連人間開発報告書でも「新技術と人間開発」をメインテーマとし、当時一般普及が加速していたインターネットを中心とする科学技術に大きなスポットが当たっていました。そこからe-Japan戦略IIの頃までがODAにおけるIT系のピークでしょう。
その後、2008年の北海道洞爺湖サミットでは、キーワードが世界の食料安全保障・テロ対策・エネルギー安全保障と気候変動に移動しています。こういうハヤリスタリに合わせて、人も言葉も態度も変わるもんだなぁ、と妙な実感を持っています。
Ozakiさん
ITを「使っていた」じゃなくて、「語っていた」という点が2000年。「使わざるを得なくなってきた」のが今なんじゃないかと思います。2000年のときには、まだ早かったと言うことなのかと。
遠くからの参加でしたが、国際社会の動向など興味深く楽しませていただきました。国連のITにおける役割についての質問、私も印象に残りました。
私としては、確かに国連は会議ばっかりで何も生み出してはいないが、各国で牽制•協議し合うことで、民間企業が平等な条件で戦う下地を作ってる、のかなと考えました。
つまり、民間主導でIT市場は動いているのは事実ですが、その大きな前提条件に国際社会による牽制というのがあるのでは、ということです。
[…] 先日の勉強会で登壇いただいたハイパーネットワーク社会研究所の会津先生から、イベント紹介の連絡をもらいました。「ソーシャルファブ・カンファレンス2013 in Tokyo」(8月31日です。直前の紹介ですいません・・・)というもの。ソーシャルファブと途上国開発がどうつながるのか?という点について、ちょっと考えてみました。 […]
[…] 以前、自分が企画した公開勉強会「インターネットと今後の途上国開発の関係を考える」にもゲストとして来て頂いた会津先生や、FabLabの第一人者の田中先生など、自分も日本に居たら参加したいところですが、残念ながらガーナにいるので無理です・・・。 そう言えば、JICAで「開発途上国における情報通信技術の適用にあり方に関する調査」という調査が行われて2015年10月に報告書が完成され、ウェブでも公開されています。網羅的にJICAとICT4Dを捉えている報告書なので、この分野に関心のある方には一読することをオススメします。 […]
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