マンチェスター大学Heeks教授のブログにて、ここ最近頻繁に使われるようになっている「Digital Development」とこれまで使われて来たICT4Dという言葉について、途上国開発におけるICTの立ち位置(期待、役割、課題等)がまとめられており、とても興味深かったので以下、紹介したい(詳細については是非、Heeks教授のブログを直接読んでもらえればと思います)。
ICT4D時代(これが今までの途上国開発におけるICTの立ち位置:便宜上ICT4D時代と言ってみます)とDigital Development時代(こちらが最近(最新)の途上国開発におけるICTの立ち位置::便宜上ICT4D時代と言ってみます)といった感じで捉えてもらうと分かり易いかと。そして、以下がその2つを比較し、どう変化したかを示す表(ICTs for Development Blogからの抜粋)。すこしボリュームがありますが、一見の価値有り。何となくは気づいていたという程度の概念が文字に落とされてより明確になった感じがします。
META-ISSUE | ISSUE | ICT4D | DIGITAL DEVELOPMENT |
Development | Development goals | MDGs | SDGs (Inclusion, Sustainability, Transformation) |
Nature of development | International Development (global South) | Global Development (universal) | |
Technology | Infrastructure | Partial (individually-connected ICTs; global North dominant presence) | Ubiquitous (cloud-based “digital nervous system” of converged ICTs; global South dominant presence) |
Key technologies | PC, internet, mobile phone | Smartphone, broadband, sensor, 3D printer | |
Focus | Conspicuous artefacts, devices | Data, information (artefacts become unobtrusive, tacit in life) | |
Data | Text-dominant | Audio-visual-dominant | |
Development Application | Development role | Tool for development | Platform and medium for development |
Development models | “Development 1.0”: digitising and improving existing development processes
|
“Development 2.0”: redesigning development processes and systems (users as digital producers, the power of the crowd, digital participation, network structures, data-intensive development, and open development) | |
“Intensive development” and discrete digital economy | “Extensive development” and pervasive digital economy | ||
Innovation model | “ICT4D 1.0”: inclusive pro-poor (laboratory), semi-closed, linear | “ICT4D 2.0”: inclusive para-poor/per-poor (participative, grassroots), semi-open, agile & iterative | |
Development Systems | Development geography | Places and nodes | Spaces, hybrid places, relations, and flows (breakdown of time/space barriers) |
Development structures | Linearity: hierarchies and chains | Complexity: multi-scalar, interconnected (but still hierarchical) networks and ecosystems | |
Networks: local, national; simple and loose-connected; physical | Networks: transnational, global; complex and inter-connected; physical and virtual | ||
Generic impacts: stability, development | Generic impacts: volatility, ripple of shocks, uncertainty, precariousness, potential regression | ||
Development processes | Human (decisions & actions) | Smart (algorithmic decision-making; automated action) | |
Development logics | Closed-dominant | Form (models/structures) and practices (processes) change but still closed-dominant | |
Development Agency | Capabilities | Digital immigrant | Digital native |
Technology usage | Partial, intermittent | Digital immersion | |
From physical collective to individual use (introspection) | From individual to virtual collective use (performance) | ||
Development Impacts | Economic development | Enhanced capitalism | Frictionless capitalism |
Political development | Accelerated liberalism | Accelerated pluralism | |
Impacts worldview | Positive | Positive and negative | |
Development Policy | Policy structures | Feudal: partly-mainstreamed (cells within sectoral silos) | Federal: fully-mainstreamed (foundation to all sectoral policy/strategy) & sidestreamed (cross-cutting coherence) |
Development issues | Inclusion: digital divide (absolute exclusion) | Inclusion: network position (relative exclusion and adverse inclusion) | |
Sustainability: of ICT4D projects | Sustainability: of development; resilience | ||
Transformation: only digitisation and improvement as potential impacts | Transformation: redesign and transformation as potential impacts | ||
Value chain focus | Readiness to Uptake as constraints to positive impacts | Impact: positive and negative | |
Development Informatics Research | Research issues | Incremental impacts: digitisation and improvement of traditional development | Disruptive impacts: redesign and transformation, including digital economy and digital politics |
Readiness and adoption | Political economy and digital harm | ||
Technology and context | Agency, institutions, and structural relations | ||
Conceptual models | Traditional disciplinary conceptions | Network models, complex adaptive systems | |
Digital divide models | Political economy models | ||
Technology acceptance model | Institutional logics |
そして個人的な気づきの点を以下、いくつか書いてみます。
途上国でのICT普及は先進国のICT企業を太らせるためのものなのか?
上記の表のDevelopment Applicationの中のDevelopment Roleを見ると、これまでのICT4D時代には「Tool for Development」となっていますが、それがDigital Development時代には「Platform and Medium for Development」となっています。このPlatformという点について、先日、ICT4Dに絡むコンサルタントの方と話していた時、以下のような話がでました。
途上国でICTが普及しても、その利活用のプラットフォームを押さえているのは先進国(特にアメリカ)の企業。Google, Facebook, Twitter, Amazon, etc.。途上国においても誰もが簡単にICTサービスを活用して便利になるのは確かだけれども、それで特をしているのは先進国企業であり、その規模に比べて途上国側のメリットは(勿論、あるけど)非常に限定的なのでは?そして、IoT、AI、ビッグデータ等の新たなテクノロジーによって、より一層その傾向(つまり、プラットフォームを制する者しか得しない)が強まるのではないか?
最近、IoTはこれでもかという位、ほぼ毎週日経新聞に記事が出ています。有名なのは建機のコマツがセンサー付き建機を販売し、部品交換などの時期を把握して適切なメンテナンスサービスを提供するビジネスをやっています(KOMTRAX)。別の例では、製造業では途上国の生産工場をIoT技術でリモート監視・コントロールすることで世界中の工場を効率よく運営することが可能になり、人件費削減にも繋がるといったことを日本や欧米企業がやっています。このようなIoT技術でのリモート監視・コントロールは、製造業だけでなくあらゆる分野(運輸交通、電力、水道などの公共インフラ分野など)でも導入されていくでしょう。そうなると、途上国でも機材のメンテや公共インフラの運用がより適切に実施出来るというメリットがある一方で、その国における技術者のレベルアップや技術の底上げが出来にくくなるというデメリットも生じるのではないかと思います。
世銀のWDR2016に述べられているように、ICT技術は既存の能力を増幅させる効果がある。だけども、それは、そもそもの既存の能力が高い国に低い国がいとも簡単に負けてしまうという構図。これまでは通信環境がイマイチ故に、現地の技術者育成が必要だったのに、通信環境やテクノロジーが発展すればするほど、現地の技術レベルが関係なくなり、途上国は先進国企業が提供する便利なサービスを購入するユーザという位置に固定されてしまうのではないか?
FocusがDeviceからData, Informationへ!とも言い切れない?
上記の表のTechnologyの中のFocusを見ると、これまでのICT4D時代には「Device」となっていますが、それがDigital Development時代には「Data, Information」となっています。この点は確かにそのとおりと納得感もあるものの、一方で、広い意味でのDeviceとしては、ウェアラブルデバイスやドローン、ロボットなんかもあり、必ずしも「Data, Information」のみにフォーカスが移っているとも言い切れないと感じます。
先日、このブログでも紹介したJICAがやっている「オープンイノベーションと開発」という研究成果をまとめた報告書ドラフトを読んだところ、会津先生の書かれた章に「シリコンバレーでは、「ソフトやネットにはもう飽きた・つまんない」、「リアルが面白い」とよく言われる」という一文がある。要するに、ネットやソフトのビジネスで成功した起業家達が、次はモノ作りに走っているそうだである(この報告書の会津先生の章はとても面白いのは別の投稿で改めて扱いたいと思います)。Fablabや3Dプリンタの普及ということを考えると、Digital Development時代に必ずしもDeviceが軽視されているわけではないだろう(むしろフォーカスされていると感じる)。
Research Issueの変化
上記の表のDevelopment Informatics Researchの中のResearch Issuesを見ると、これまでのICT4D時代には「Readiness and Adoption」や「Technology and Context」となっていますが、それがDigital Development時代には「Political economy and digital harm」や「Agency, institutions, and structural relations」となっています。
この点は非常に納得&重要な課題になると思います。これまでは、ICTを途上国開発プロジェクトで使うために、「ユーザのスキルは十分か?インフラは整っているか?とか、政治的、文化的にICTを活用することがちゃんと受け入れられ普及するか?」をプロジェクトが実施される個々の国や地域のコンテクストに合わせて考慮するというのがICT4Dの大きな課題の1つでした。それが、これからは、もう一つ上段に構えて政治経済とか法規制とか、そっちの観点でも考えないとならないという変化。
例えば、これまた最近流行のFinTech分野のサービスが途上国にも波及していく場合、途上国側の法規制はどうなるのか?また、最近自分やガーナに住みつつも、Amazon.ukで買い物したりしています。思いのほか早く品物がちゃんと届きます!ふと、Amazon.ukとかってガーナ政府に税金払っているのかな?と思ったりします(←このあたり詳しい方、教えてもらえるととてもありがたいですっ!)。途上国でも通信環境や決済手段が発展すればするほど、ネットで外国から商品を買う人って増えると思うけど、そうなったときに途上国側では、どう税金をとることが出来るのだろう。
という単純な疑問とともに、IoT技術によって色々なデータ(例えば上記のような公共インフラ運用に係るデータなど)が他国に送られる場合に、政府はザルで良いのか?とか、情報セキュリティとか、色々な点で途上国側も先進国側もこれら整備しないとならない法規制があると思われる。
結局上から目線のTechnology-drivenなのか?
このオリジナルのHeeks教授のブログポストにサセックス大学IDSの先生がコメントをしている。「そもそもICT4Dって言葉は、好きじゃないんだよね。だって、なんだか上から目線でTop-downじゃん。ICT with Development とかby Developmentみたないほうが自分は好き。そういう意味では、Digital Developmentって言葉は悪くないね。」的なコメントである。
「用語はなんでもイイっしょ」というのが個人的な意見だが、このコメントをきっかけにちょっと考えてみた。ICT4DからDigital Developmentという流れがそもそもTop-downなんだろうと感じる。良く言われることだが、ラジオやテレビが出現したときには、そのテクノロジーを途上国開発に活用することが期待され、これで途上国開発のスピードが促進される!と誰もが思ったはず。そして、パソコンとインターネットが普及したときも同様。モバイルもブロードバンドも同様。そして今はIoT、AI、ビッグデータ、3Dプリンタ、etc.。結局、新しいテクノロジーが出現したら、それをどう途上国開発に活用しようか?という点は普遍的である。その意味で、新しいテクノロジーが開発される先進国側からの目線になるのは仕方ないのだろう。
ただ、振り返ってみると、途上国開発におけるラジオやテレビの利活用はもう100%有効に出来ているのか?ICT4D時代の課題(端的に言えば、どうすれはICT4Dプロジェクトを100発100中で成功させられるのか?)は解決出来ているのか?という問いがある。間違いなくこの問いの回答は「いいえ、まだです・・・」となるのだが、次々と出現する新しいテクノロジーの波は無視出来ず、また、新しいモノのほうが注目が集まる(=お金も集まる)ということで、どんどん途上国開発に活用すべきテクノロジーも最新化されていくわけです。この構図は、Technology-drivenということで、「課題・問題があってそれを解決するためにテクノロジーを利用する」ではなく、「テクノロジーを使いたいから課題・問題を発見する」というものではないか。
最後に
以上のように色々と考えてみました。新しいテクノロジーの波は無視出来ず、それを途上国開発にどう活用するか?は自分が最近常に関心をもっているテーマですが、Technology-drivenにならないように気をつけなくては、という自戒にもなりました。迫り来るテクノロジーの波に対して、単なる消費者とならず、自国の発展にどうテクノロジーを取り込んで活用していくのか?途上国側に課せられた課題は結構ヘビーですね。関係ないけど、一昨日まで居たシエラレオネの写真を載っけます(折角撮ったので)。
コメント
記事最後の「単なる消費者とならず…」ってトコで結論が出ちゃってますよね。
しかし、最終消費者としてのスタンスは楽なんです。本能のままに「さっしてちゃん」になって一方通行で文句だけ言ってりゃいいから(笑)。主観的な「ワカラン」「オモッテタノトチガウ」を振り回せば、ほら、あなたも最強チート戦士に! しかも責任からもフリー! でも欲しいものは一体何だったのだろうか?(爆笑)。
ただ、責任は無いけど、自分の欲しいものが出てくるまではひたすら座して待つしか無いのです。とはいえ、出てきたところで指名買いもできず、他者の評判を気にしつつ(だれかが「いいよ」っていうまで待つ。そうすると、選択の責任を「いいよ」って言った人に若干でも押し付けることができる)競合製品が出てくるまで待つ、って感じでしょうかね。当該サービスジャンルや製品カテゴリの寿命が先に尽きてしまいそうですが。
記事の中ほどの『途上国は先進国企業が提供する便利なサービスを購入するユーザという位置に固定されてしまうのではないか?』のセンテンス、もう何も異論ありません(再笑)。途上国だけじゃなく、某国援助機関も日本の一般消費者もスタンスは一緒です。購入か調達か、っていう言葉の違いだけ。
私事ネタですが、久しぶりのプログラムコーディング作業が一段落しました。
Android端末を使い、Google Cloud Platform上でネタを動かし、ClickatellやTwilioを連動させ…って北米企業が提供するプラットフォームばかりなので、記事内容にはギクリとしてしまいました。心臓に悪い(苦笑)。
だってさー、奴らはちゃんと開発者の方を向いてるんだもん。最終消費者への価値提供は開発者の仕事だから、その開発者が共通的に面倒だと考えているコトは(お金に応じて)サポートしまっせ、最終消費者向けのドキュメントは必要最小限だけど、開発者向けのテンプレートやドキュメントは豊富に提供しますよ、って感じなんですよね。
しかし、支払いが全部クレカってことで、一時的にでも個人負担が発生するのがネック。その部分では、私は奴らのターゲットとする開発者の定義からズレてるんだろうな、と(ボリューム買いをすると、いろんな支払い方法を選べるんですけどね)。
付記:
ガーナからAmazon.ukで買っても、おそらく通関時に税金とか倉庫保管料などをガーナ政府に支払っていると思います。DHL/EMSのレシートに記載されていないですか?
(Amazon社本体は、昨今話題になっているケイマンとかパナマとかデラウェアのスキーム使っていたと曖昧に記憶)。
なお、ガーナは独自の通関ICTシステムを開発・運営維持できている数少ない国の一つだったと、これまた曖昧に記憶してます。
[…] まり明るい未来が見えてこないと思うのは自分だけだろうか・・・。以前の投稿「ICT4DからDigital Develpmentへ」でも言及したように、結局、途上国と先進国の格差は、新たなテクノロジーに […]
[…] […]