前回の投稿に続いての「その2」です。
技術革新が仕事におよぼす影響について特に途上国の視点から、UNDP人間開発報告書の内容を拾っていきます。
まずは、技術革新(とくにICT)による大きな変化について。
- 世界のフローにおいて知識集約型の財・サービスが中心を占めるようになり、資本集約型・労働集約型の財・サービスを上回るペースで増加している。現時点で前者は世界のフローの半分に達し、さらにその割合を増している。知識集約型財のフローは知識集約型財のそれの1.3倍のペースで増加している。(P101)
- その結果として、財・サービスのデジタルなフローも増加している。実際、「アプリ経済」という言葉が示すように、今や多くの財が完全にバーチャル化している。(P101)
- 調査研究によると、2013年時点で米国だけでもアプリ経済が75万人に何らかの形の仕事をもたらしていた。(P105)
- 近年、知識が生産に対して中心的な意味を持つようになった。製造業でも組み込まれた知識によって最終製品の価値が決まる度合いが増している。例えば、スマホ最上位機種の価格は、部品と組み立てコストよりも高度な設計と技術に要したコストのほうが大きな部分を占めている。(P107)
- 2012年の数字で知識集約型の財・サービス・金融の取引のほぼ半分において、その価値の大きな部分を研究・開発と熟練労働が占め、その価値はほぼ13兆米ドルに達している。そして、知識よりも労働力・資本・資源を集約した製品・サービスの割合が下がる一方で、知識集約型の製品・サービスの割合は着実に増している。(P107)
そして、デジタル化されたサービスの特徴について。カッコ内は自分の補足説明です。
- (デジタル化されたサービスを一旦開発すると、その複製は極めて楽チンになるとう話)ローコスト、あるいはゼロコストでの複製は仕事の成果に対するアクセスを広げるが、新たな雇用はほとんど生み出さないかもしれない。(P105)
- (新たな雇用を生み出さない例として)ツイッターの月間アクティブユーザー数は、2015年3月時点で3億200万人に達し、1日5億件のツイートを通じて情報やニュースが生成・拡散される一方で、ツイッター社の従業員数は、3900人にすぎる、その半数を技術者が占めている。(P105)
- デジタル経済の第2の特徴として、人々が消費する財・サービスの一部は消費者自身によって生産される。つまり消費者が「プロシューマー(ProducerとConsumerの合成語)」になる。(P105)←これはWeb2.0とかICT4D2.0の話と同じ。
- その最も直接的な事例が、7万3000人超えのボランティア執筆者を擁するウィキペディアだろう。無料オンライン百科事典のウィキペディアは、2012年に244年続いた活字出版の幕を閉じた「エンサイクロペディア・ブリタニカ」などの有料情報サービスと直接的に競合している。(P105)
- いくつかの形で仕事のプロ化に逆転が起きている。(P106)
最後に最終的に仕事にどういう影響があるか?AIやロボットの能力が上がっていくと、それに取って変わられる職が沢山あるよね、という話。
- これまでに多くの国が、利益率の低い労働集約型の製品から電子機器の組み立て、そして高度な製品や設計、管理への移行を果たしてきた。開発プロセスが遅れて始まった国々は、「早すぎる脱工業化」さらには、「無工業化」にも直面している。今や製造業が多数の職なき人々を吸収することはできない。(P108)
- 新技術がもたらす真の影響は、低技能の労働者の需要減と高技能の労働者の需要増である。(そしてそれが)仕事の機会の二極化を引き起こす。中間部分ではオフィスと工場で多くの職が着実に空洞化していくことになる。(P116)
上記の指摘は、以前の投稿「IoT、ビッグデータ、AI、3Dプリンタ、ドローン、新たなテクノロジーは途上国を豊かにするのか?」でも記載したように、自分もまさに同じことを考えていたのですんなり頭に入って来た。特に、東南アジア諸国が発展したような、日本など先進国の工場を誘致して、雇用を生み出すとともに、そこで働く労働者がスキルアップして行き、スピンオフして起業したりしながら、国の産業レベルが上がって行く…といった開発モデルは、途上国の工場ロボットをIoTで先進国から遠隔監視する仕組みやAIの活用、データだけ送れば3Dプリンターで製品が出来てしまう…という技術革新によって、成り立たなくなりつつある。アフリカなどのこれからの国は、これまでの開発モデルに代わる新しい開発モデルを模索する必要があるのだろう。この報告書では、以下の点がそれに関連している。
- デジタル・リテラシーの重要性が増している。(P108)
- デジタル革命とグローバルなつながりを人間開発の向上へと導くためには、市場の機能だけでは不十分なはずである。このような機会をより良く活かすために、国レベルと世界レベルでの公共政策と施策が必要とされている。(P121)
上記が、この章のまとめになっているのですが、以下、「仕事の機会の二極化」に関連して、個人的に驚いた点も追加します。
- 世界でも最も裕福な上位1%が世界の富全体に占める割合は、2009年の44%から2014年の48%へ増加し、さらに2016年に50%を超える見通しにある。(P119)
- 例えば、米国のCEOの報酬と一般労働者の報酬の対比は、以下のとおり(P120)
- 1965年 20:1
- 1978年 30:1
- 2000年 383:1
- 2013年 296:1
この数字を見ると、「途上国支援の問題は、上位1%の人達でどーにかして下さい」と自分の仕事の意味に疑問を感じてもしまいますが、これが現実。テクノロジーの発展がこれに拍車を掛けるというなら、ますます途上国に課せられた課題は大きいものだと感じます。
ちなみに、
- デジタル革命はあらゆる種類の革新を安く速く可能にしている。このことは、過去数十年間の特許登録件数の増え方に映し出されている。1970ー2012年の間に、米国特許庁に認められた特許の件数(米国と他の国の総計)はほぼ5倍に増加した。コンピュータとエレクトロニクス分野における革新がこの増加の中心を占めた。特許登録全体に占めるその割合は、1990ー2012年の間に25.6%から54.6%に増加した。(P110)
- 2013年の特許登録件数の上位12カ国は、以下のとおり。(P110)
- 1位:日本
- 2位:米国
- 3位:中国
- 4位:韓国
- 5位:ドイツ
- 6位:フランス
- 7位:ロシア
- 8位:英国
- 9位:イスラエル
- 10位:インド
- 11位:イラン
- 12位:シンガポール
おおっ!日本が1位になってる!
と言うことで、日本がICT4D分野(←狭いプロジェクトという意味でなく、むしろ上記のような途上国が直面している課題に対する解決の支援の方で)で途上国支援をしていく意義って、結構あると改めて感じました。
コメント
『スマホ最上位機種の価格は、部品と組み立てコストよりも高度な設計と技術に要したコストのほうが大きな部分を占めている』の「高度な設計と技術」を「パテント使用料」に、『多くの財が完全にバーチャル化(仮想化)している』を「多くの財がクレジット化(信用取引化)している」と置き換えてみると一気に泥臭くなりますね(笑)。
プロシューマーという造語を世に出した未来学者のアルビン・トフラー氏は、『富は現在どこでも生み出され(グローバリゼーション)、同時にどこにも存在せず(サイバースペース)、外(宇宙空間)にある』と言ってたようなんですが、いよいよ時代は宇宙にまで飛び出しますか…。
デジタルリテラシについても、同氏の『21世紀の文盲とは、読み書きできない人ではなく、学んだことを忘れ、再学習できない人々を指すようになるだろう』の言葉に集約されるのかもしれませんね。まーったく定量的ではありませんが(苦笑)。
[Wikipediaより引用]
Ozakiさん、遅い返信でスイマセン…。トフラーのこと、お恥ずかしながら知りませんでした。ちょっと調べてみたら、とても面白そうな本とか出てますね。読んでみようかと思います。引き続き、このブログに対して色々な視点からのコメントを期待しています!
[…] ICTビジネス振興:輸送コストがかかる内陸国故に労働集約型産業をしようにもコスパが悪いということから高付加価値ビジネスを目指しICTへ、という流れ。前回の投稿に記載した、「技術革新が進んで労働集積型産業から知識集約型産業へのシフトが起きている」という世界の流れを先読みした政策が凄い。 […]
[…] しようにもコスパが悪いということから高付加価値ビジネスを目指しICTへ、という流れ。前回の投稿に記載した、「技術革新が進んで労働集積型産業から知識集約型産業へのシフトが起き […]