ウガンダのm-healthプロジェクトが教えてくれること

ウガンダでのm-healthプロジェクトの記事「Google Sex Advice Boosted Cheating in Lesson for Mobile Health 」があった。読んで見て、ICT4Dプロジェクトで大切な視点を改めて再認識させられる内容だったので、ご紹介したい。

Googleとグラミン財団がMTN(携帯通信会社)の協力を得て、m-healthプロジェクトをウガンダの60の村で実施している(これ以外にもいろんな取組をしています)。このプロジェクトでは、主にエイズをはじめとする性感染症を防止するために、有益な情報を携帯のSMSを通じて提供する。性感染症に関する質問をSMSで受け付けて、Googleの技術でデータベースからその回答を自動的に見つけて、テンプレートに沿った回答メッセージを返信する仕組み。このプロジェクトで対象地域のパートナーでない異性とのセックスが減ったり、それによって性感染症が減るという効果が期待された。

しかしながら、Yale Universityにより最近実施されたプロジェクトの評価結果は、想像とは逆であった。プロジェクト実施前と実施後で、なんと浮気をする人(パートナー以外とのセックスをする人)が12%から27%に増えたのだ。その考えられる理由としては、以下のような要因が上げられている。

  1. 現地語での回答検索機能がイマイチであった
  2. (上記のため、)回答が不適切だった
  3. あまり住民がこのサービスを利用しなかった
  4. 有益な情報を得ることが出来ても、性感染症対策の薬を買う金がなかった
  5. このプロジェクトで女性はパートナーとのセックスでコンドームを使ったり等の対策を取るようになったが、それに反対する男性が逆にパートナーとセックスしなくなり、浮気相手とセックスするようになった(例えば、わかりやすくいうと、コンドームの使用を強要する奥さんよりも、コンドームしないでセックスさせてくれる浮気相手とセックスするようになった)

この調査結果は、まさにICT4Dプロジェクトの難しさを表していると感じた(先週のJICA関西のICT4Dセミナーで訴えたかったことと同じ)。ICTそのものよりも、それ以外の課題に直面するという例として、言語の問題や、ターゲットとしている人々がサービスを利用しない(=安全なセックスをそれほど求めてない)という事実、そもそも金がないという問題、そして、最後の5番目の理由に至っては、他人が考える有益な情報提供が必ずしも万人にとって有益な情報とは限らないというリアリティ。ほんと難しい・・・。

先日、神戸情報大学院の炭谷学長の本「課題解決の新技術」(←この本、面白いのでこの本については、また紹介したいと思います)を読んでいたらGoogle日本法人の元社長である辻野晃一郎氏の言葉が紹介されていた。「合理性を超えたとろに正解がある」

なるほど、確かにその通りなのかもしれない。以前、このブログ「モバイルバンキング神話は本当?」のコメントで紹介したように、M-PESA成功の秘訣は何か?というICT4Dブログ(マンチェスター大学のHeeks教授他が運営しているブログです)の投稿で、ケニア政府の支援やニーズの有無、サービスの仲介業者の充実度など多岐にわたる要素が成否のFactorであるとの研究結果が発表されていたことに対して、Safaricomの元CEOであるMichael Joseph氏が「そんなんじゃない。成功の要因は気合いと根性!」的なコメントをしていたことを思い出す。

また、マンチェスター大学Heeks教授のいうところの「Hard Rational Design」(合理性や理屈に基づいたプロジェクト設計)と「Soft Reality」(実際の混沌・矛盾に満ちた現実)のギャップともいえる。

途上国で携帯がここまで普及した理由としては、プリペイド方式とか低価格な端末が販売され始めたなど、それなりの理由があるが、個人的には「カッコイイから」というのが実は結構な理由の一つなんじゃないかと思う。カッコいいから持ちたいという気持ち。なんせ人が決めることですから。

上記のウガンダのおけるm-healthプロジェクト結果の記事を読んで、このように改めてICT4Dプロジェクトで忘れてはならない視点を思い出した。勿論、このプロジェクトの結果が全てではなく、むしろ例外的なのかもしれない。これをもって、同様のm-healthプロジェクトそのものの価値や効果を否定するのは間違っている。今や世界の携帯電話契約数は人口比で96%(インターネット契約数の2倍以上)、途上国においても89%の普及率といわれている(2013年2月ITUレポート)。ここまで浸透しているツールを活用しない手はない。しかし、現場の視点から、どういった情報がどのようなコミュニティにおいてどんな意味を持つのか?といったことを、慎重に検討する姿勢は忘れてはならないということだろう。

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3. その他

コメント

  1. […] ウガンダのm-healthプロジェクトが教えてくれること | ICT for Development.JP […]

  2. Ozaki Yuji より:

    携帯電話は、ドナーや援助関係者が何の介入もしていないのに一般の人に普及し、利用者は自発的に利用法を学習し、携帯電話オペレータ・キャリアは、援助なしに(貧乏人相手の)ビジネスをインフラ増強も含めてうまく回しているように見える。この「とどく・つながる」仕組みに便乗したい人は多いのでしょうね。
    しかし、医療保健の業界に限らずとも、根本的に彼らのビジネスを理解することなく、「自分のルールに従う、自分にとっての便利な道具」としか解釈できないところに矛盾が出ます。

    合理性を超えた所に人間の行動が見られるのは、マーケティングの世界ですね。でなきゃ、全ての商品はヒットし、全てのテレビドラマが視聴率40%を超えることになってしまいます(笑)。
    世の中にあふれる情報は、「うまくいったものはこうだった」であり、「こうすればうまくいく」を保証するものではありません。故に、リスク管理をやるんですが、諸事情あり、日本ではその仕組みすら作らせてもらえない(結局は現場がハラキリ)ことの方が多いような気がしています。

    結局、「だって(ITなんかヲタクっぽいしー、理解したところでメリットないしー)わからないんだもーん!」と仰りつつ、論理的矛盾を製造しまくっている方々の方が、顔色よさそうに見えますわ(笑)。

  3. yukke より:

    m-healthとはちょっと違いそうだけど、JICAも母子手帳でプロジェクト研究をするようで興味津々です。診察予定のカンファメーションをモバイルで飛ばして受診を促進しつつ、生活用品宣伝で広告料をもらってシステムを維持する、とかかなあ。。

  4. tomonarit より:

    Ozakiさん、yukkeさん、コメントありがとうございます。
    ドラッカーの言葉に、以下のものがありますね。まさにそのとおりと感じます。でも、言うは易く行うは難しってことですね。

    「マーケティングは顧客からスタートする。『我々は何を売りたいか』ではなく、『顧客は何を買いたいか』を問う。『我々の製品やサービスにできることはこれである。』ではなく、『顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足はこれである』と言う。」

  5. Ozaki Yuji より:

    m-healthもそうですが、ドラッカーのネタと合わせて、サービスデザインという思考法 が少々具体的でしっくり来ますね。

    個人的な見解ですが、保健医療分野でプロジェクトの上流工程を扱う人の頭の中では、最終目的が「当該国の保健医療分野担当政務官をエビデンスベースでガッチガチに理論武装させ、国家予算争奪戦に少しでも有利な条件で参加させる」であり、そのために、現場での活動が「臨床医学に基づき、コスト有効性・インパクトを論述する根拠となるエビデンスの収集」で終わっていると感じます。
    つまり、末端ユーザーやビジネスのことを考えた、継続性を担保するサービスデザインには、まだ意図的に目を向けていないように見えます。そこがGtoGの活動限界なのかもしれません。

    > yukke さん
    公共機関が広告を取り扱う場合、法律による規制を考慮することになるでしょうね。それに基づく広告出稿者の審査が大変そうだ….。
    当該国内で法整備がなされていなくても、少なくとも日本国内ベースでの薬事法や不正競争防止法、景品表示法などによる規制は意識せざるを得ないでしょうね。
    また、母子手帳などを含む優秀な公共系広告媒体が、その優秀さ故に利権化して不正の温床になっちまったらどうしよう(某国の会社が、「金ならあるぞ」の勢いで偽薬の広告をねじ込んできたらどうするんだろう)、という懸念もあります。

    それ以前に、広告に代表される「モノを作らない系」ビジネスに対する強い抵抗感を持つ業界関係者は結構多いようです。一種のケガレを感じているのかなー?

    私は心配し過ぎなのかなぁ。

  6. Ozaki Yuji より:

    m-healthについては、上流工程から、プラットフォームとコンテンツとは区別して考える必要あり(プラットフォームにインパクトやらコスト有効性を求めても測定できませーん)。
    保健医療分野での国際協力では、JICAと外務省の意見が割れているんじゃね?というネタあり
    原資が税金である事業での扱いを考えると、両者の言い分にもそれなりの理はあるのかな、とも。
    「カイゼン」は、目標をガチに固めなくても記録をつけなくても何となくできてしまうもの。この「何となく」が日本人の凄みではなかろうか、と考えてしまう今日この頃です。

  7. Ozaki Yuji より:

    カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(広告やクリエイティブ関連の国際イベント)のモバイル部門で受賞した、フィリピンの携帯電話キャリア最大手SMART社の Smart TXTBKS(日本語の解説1解説2)。

    通信機能をオフにしたSIMカードに、SMSの形式で教科書を格納し、中古携帯電話をビューアーにして配布するというアイデア。素直にすごいな、と思います。中古携帯電話(フィーチャーフォン)があふれ、世界で一番多くのSMSが流れているフィリピンらしいアイデア。

    教科書のコンテンツは著者・出版社に協力してもらったとか、SMSの形式(一通160文字くらいで文字オンリー)に収めるのに苦労したとか、いろいろ苦労したところもあるらしいです。

    そういうところを全部「技術的な問題なんてわかんないしー」で追いやって、ショボい携帯電話にリッチコンテンツやインタラクティブコンテンツが乗るものだと思い込む援助関係者やビジネス(社会学系)コンサルが湧いてきそうで怖い、と予め逃げを打っておきます(笑)。

    • tomonarit より:

      Ozakiさん
      懸念されているような援助関係者にならぬように自分も気をつけますね(笑)

  8. Ozaki Yuji より:

    どうしたフィリピンのSMART社。社会課題の解決系が勢いづいている。誰かデキる担当者か担当役員でも入社したのか? あるいは「あまねく全ての人々へ」の制約を外すとこんなに楽になるのか?

    フィリピン国防省とフィリピン国内携帯電話キャリア最大手SMART社は、災害時の情報を素早く告知するために、webベースのSMSプラットフォーム(Infoboard service platform)の利用・提供について署名を取り交わしたとのこと。SMART社は、とりあえず3万通のSMS無料枠を設定しており、必要に応じて調整するとか。(新聞発表
    おそらく、国防省担当官がブラウザ経由で入力した内容が、Smart社のSMSの同報エリアメールで流れるんだろうな、と予想(フィリピンでは、キャリア間をまたぐSMS送受信の問題は既に解決済み)。

    たしか、在フィリピン日本大使館も、滞在日本人向けにアラートSMSを流す仕組みを利用していたはずです。

    • tomonarit より:

      Ozakiさん
      相変わらずアンテナ高いですね。面白い情報をありがとうございます!
      そのうちフィリピン国がこういう取り組みを他国へも展開していくようになるのかと思うと、ますます日本国の出る幕が減りそうで…

  9. […] てしまう親はいるとおもいます。これが「Soft-thinking」。このギャップです。このブログで2013年に投稿したウガンダのm-healthプロジェクトの例が面白いので時間あったら見てみて下さい。 […]

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