国際開発分野でのオープン・イノベーションへの期待と課題(その2)

イノベーション・新技術

ども、Tomonaritです。先日の「国際開発分野でのオープン・イノベーションへの期待と課題(その1)」の続編です。イノベーションについては相変わらずモヤモヤしているのですが、ここ最近、偶然にも見聞きした以下いくつかのことから、少し考えるヒントを得たので書いてみます。「オープン・イノベーション」に関連して、「途上国で求められているイノベーションとは?」という点についてです。

1. Global Innovation Index 2019

先日、Global Innovation Indexというデータがあるのを知りました。 Cornell University、 INSEAD、 World Intellectual Property Organizationが連携して作成しているランキング。以下がフレームワークで5種類のInput(例:R&Dに費やしている予算額等)、2種類のOutput(特許数や論文発表数など)から、その両方を総合したランキングを出しています。

Source: https://www.globalinnovationindex.org/about-gii#framework

で、気になるランキンはこちら。以下が各国を所得別に4つのグループ( High-income、 Upper middle-income、Lower middle-income、 Low-income)に分けて各グループ別のTop10カ国の表です。国名のあとのカッコにあるのが全体(129カ国)でのランキングになっています。

1位スイス、2位スウェーデン、3位アメリカ、となっており、気になる日本が入ってないな…。日本は全体で15位で、 Upper middle-incomeグループで1位になっている中国(全体で14位)の次にランクインしています(詳しくはレポート本体を見て下さい)。

ICT4Derとして気になるは、M-PesaやUshahidiを生み出しイノベーション@アフリカというイメージのケニアや ICT立国をアピールしているルワンダがどの位置か?

見ていくと、 Low-incomeグループ筆頭にありました、Rwanda。グループではTopですが全体では94位。一方ケニアは Low-middle-incomeグループの10番目にあり、全体では77位。ちなみに、アフリカのTop3は1位南アフリカ(全体で63位)、2位ケニア、3位モーリシャス(82位)。「今、アフリカではイノベーション起きてる」という流行からすると低い順位じゃないか?

でも、確かにR&Dにいくらかけているか?等の指標を使う上記のフレームワークを見ると、こういう順位になるのは当たり前だと納得できます。つまり今、注目を浴びている「イノベーション@アフリカ」というときのイノベーションとは、R&Dの結果としての技術革新(高度な技術革新というパッと思いつくイノベーションのイメージ)とは異なるものだと考えるのが妥当、といえます。

2.変貌するアフリカICTビジネス

JETROセミナー「変貌するアフリカICTビジネス」(2月7日)に行ってみました。そこで、東京大学社会科学研究所の伊藤亜聖氏が新興国にデジタル化がもたらす可能性について登壇されたのですが、一番印象に残ったのが以下の点でした。

  • 研究開発(R&D)ではなく、社会実装(Deploy、もう一つのD)の面での飛び越え型実装。新興国からプラットフォーム企業が登場(Alibaba, Tencent, Gojek, Jumia)
  • それに伴う課題解決(①プラットフォームによる信用と透明性の創出)、②ICT/IoTによる積み上げ式の課題解決

特に1つめの「研究開発(R&D)ではなく、社会実装(Depoly)」が新興国で起きているイノベーション(と呼ばれる事象)の中身である、という説明は納得。「研究開発(R&D)を伸ばそうと思ったら世界Top100に入るくらいの大学を自国に作らないならないが、それは大変…」という伊藤氏の説明も説得力がありました。

世界Top100に入る大学って?と気になったのでちょっとググったらこんな記事がありました(ランキングも各種あるので必ずしもこの数値を引用するのが正しいとは言えませんが1つの目安として紹介します)。これによると200位以内に入っている日本の大学は東京大学(36位)と京都大学(65位)の2校のみ。このレベルの大学を作るにはかなり時間を要するでしょう。 勿論、技術革新のためのR&Dへの投資や大学や研究開発機関の能力向上は地道にやっていく必要はありますが、例えば、「SDGsの達成にはイノベーションが必要!」といってアフリカ諸国でR&Dに予算を投入するのはちょっとちがう気がする。2030年までには成果を出せないのではないかと思います。

3.ブルーオーシャン戦略

今、「ブルー・オーシャン戦略」という本を読んでいます。冒頭のバリュー・イノベーションの説明にピンときました。

たとえば、一般にメディア等でイノベーション成果として注目されてきたのは、優れた技術を前提にしたメーカーの新製品だった。しかしそれらの大部分は、たいした成果を得られないまま数年すると消えていく。

なぜだろうか。その答えは、ビジネスで本質的に求められているは、「バリュー・イノベーション」だからだ。顧客に新しい価値を提供し、新しい市場を切り開くことが真の革新だ(=すなわち、ブルー・オーシャン戦略そのものである)。技術はその一手段でしかない

Source: Kim, W. C., Mauborgne, R., & 有賀裕子. (2005). ブルー・オーシャン戦略――競争のない世界を創造する “Blue Ocean Strategy: How To Create Uncontested Market Space And Make The Competition Irrelevant.”.

  この「バリュー・イノベーション」がアフリカで求められていることに近いと感じました。同時に、最後の「技術はその一手段でしかない」という点にも同意。また、この本では上記の文章の前段に以下のようにも言っています。

以前からビジネスの革新を求めるかけ声は多くあった。従来、それは「イノベーション」という言葉で表現されてきた。ここで問題なのが、「イノベーション=技術革新」という先入観がもたれてきたことだ。

Source: Kim, W. C., Mauborgne, R., & 有賀裕子. (2005). ブルー・オーシャン戦略――競争のない世界を創造する “Blue Ocean Strategy: How To Create Uncontested Market Space And Make The Competition Irrelevant.”.

以前のKanotの投稿「イノベーションはもはやmeaningless??」にもあったように、イノベーションという言葉は曖昧な定義のまま、なんとなく高度な「技術革新」というイメージをまといながら使われてきたと言えます。

4.破壊的イノベーション

国際開発のなかでも特にアフリカにおけるイノベーションを語る際に、「破壊的イノベーション」という言葉を目にします。「破壊的」という言葉を使ったクリステンセンの「イノベーションのジレンマ」には以下のようにあります。

新技術のほとんどは、製品の性能を高めるものである。これを「持続的技術」と呼ぶ。

(中略)

しかし、時として「破壊的技術」が現れる。これは、少なくとも短期的には、製品の性能を引き下げる効果を持つイノベーションである。

(中略)

「破壊的技術」は、従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらす。一般的に破壊的技術の性能が既存製品の性能を下回るのは、主流市場での話である。しかし、破壊的技術には、そのほかに、主流から外れた少数の、たいていは新しい顧客に評価される特徴がある。破壊的技術を利用した製品のほうが通常は低価格、シンプル、小型で使い勝手がよい場合が多い。

Christensen, C. M. (2012). イノベーションのジレンマ 増補改訂版. 翔泳社.

ここでも技術革新とは異なるイノベーションがこれまで大企業に支配されていた市場をひっくり返してきたことが説明されています。技術がスゴイから「破壊的」なのではなく、 大企業に支配されていた市場をひっくり返してあらたな価値基準をもたらすから「破壊的」ということですね。

5.国際開発分野でのオープン・イノベーション

さて、1~4まで見てきましたが、ここでまとめて見ると、国際開発分野で短期的(例えば2030年まで)に求められているのは、高度な技術革新ではなく、「どうやって既存の技術を途上国コンテキストに合った形 (低価格で使い勝手良く) で社会実装出来るか?というアイデア」なんだと思います。そして、そのアイデアの実行の際には、勿論、技術が活用される訳ですが、その技術そのものがイノベーションではなく、技術はあくまでも手段という位置づけだと思います。

こんなことを考えていたら、JICAが 2/18(火) に以下のイベントを開催するとのお知らせを見ました (詳細はJICAのWebサイトを確認下さい) 。

このなかで、TICADオープンイノベーションプラットフォーム構想(前回、「その1」で少し紹介)についての発表もあります。こういうプラットフォームには、「イノベーション」について様々な定義・イメージを持ったステークホルダーが参加するのだと思います。そこでまずはイノベーションの定義について議論してみるってのは、なかなか盛り上がるテーマじゃないかなぁ。

以上、国際開発分野でのオープン・イノベーションへの期待と課題(その2)でした。自分の中モヤモヤ感は少しだけクリアになってきた気がしますが、まだまだ中途半端なので、今度(その3)も書いて見ます。

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コメント

  1. […] 前回、(その2)では、以下のようにまとめました。 […]

  2. […] Tomonaritも最近の投稿で触れていましたが、イノベーションには技術も大事ですが、それよりも発想の転換だなぁと、改めて感じる事例でした。 […]

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