DXって何?ICT4Dの共通点とは?

ブックレビュー

どもTomonaritです。ちょいと前に友人から面白いレポートを紹介してもらいました。そのレポート(というかハンドブック)は、

『GDX:行政府における理念と実践』

というもの。

このレポートを紹介するプレスリリースはこんな感じの紹介になっています(以下、一部抜粋)。

【ハンドブック概要】
ーあなたの知っている「DX」は根本から間違っている!?ー
今年9月のデジタル庁発足に先立ち、世界の行政DX・先進国へのリサーチを下敷きに、いまや行政/民間、国/地方を問わず、経済社会のあらゆる領域で、避けて通れない課題となりつつある「DX」の解題に若林恵氏が挑む。

若林恵氏による7万字にわたる仮想対談形式の”DX問答”が完成!どこか判然とせず、モヤモヤとする「DX」という言葉。世界をリードする「行政DX推進組織」の最前線では、何が語られ、何が行われているのか?「DX」の理念・核心から、実践までを紐解く、ガバメントDXの決定版!

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000049028.html

政府のDXと聞くだけで「つまらなそう・・・」と思う方も少なくないと思いますが、これはいわゆる総務省や経産省がコンサルに発注して作るような報告書とは一味違って、個人的にはとても面白かったです。まず、レポートっぽくなくて、本文が会話調である点が読みやすい!

Source: https://www.iais.or.jp/reports/labreport/20210601/dx2020/

そんなことで、読み進んでいくと、「そもそも、DXとはなんぞや?」という話の中で、どこかでよく聞いたような話が沢山出てくるのです。それは、ICT4D分野で10年以上前から言われていることでした(特にRichard Heeks教授の教科書に書いている内容)。「歴史は繰り返す・・・」的な投稿がちょっと前にありましたが、まさにそのとおりかもと思いました。

そんなわけで、このハンドブックの中に記載されているDXについて記載で「なるほど!」という点と、ICT4Dの共通点を以下にいくつか抜粋してみます。

IT化とDXは何が違うのか?

言わずと知れた昨今のバズワード・・・DX。この定義は人によってもバラバラで、おそらくIT化とほぼ同義で使われているシーンも多いと思います。でもこのハンドブックを読むと明快な解釈が書いてありました。私の解釈も含んでしまうかもしれませんがかいつまんで書いてみると、

IT化は、今までの業務プロセスとかサービスをデジタル技術を活用して効率化するってこと。これは単純明快。で、DXは、IT化された後の話。社会全体のデジタル化によって変化した状況にどう適応し、あらゆるシステムをどう作り直すか?ということ。「デジタル化された結果に対応するのがDX」ということ。

この説明は「なるほど」と思いました。「デジタル化された結果」が前提になっているわけですが、そこまでの過程も含んでいると考えるとデジタル化もDXの中に含まれていると言えるのですが、肝は、「デジタル化された結果にどう対応するか?」なんだと。

DXとはなんぞや?→人である!

で、より具体的にDXってなんなの?という話になると、「DXとは人である!」という説明が出てきます。このハンドブックは行政のDXということなので、何らかの行政サービスをより良くすることがDXの目的です。そして、そのためには、サービス提供側ではなく利用者側に寄り添ったサービスを作るべし!とのこと。そりゃそうですね。そこで、以下のような記載が出てきます。

  • DXと通称されている変革を通して、実現され用途しているのは、サービスの起点を「つくる側」から「受け取る側」にシフトさせようということです。
  • 「ユーザー中心」ということばが良く使われますが、これが「DXの意義」に関する端的な結論でして、聞いた範囲では、これ以外の答えは返ってきません。

「そんなこと昔から言われてる」、「何を今更・・・」と思う方は多いかと。私もその1人です。でも、以下の説明を読むと「なぜ、今、それが改めて重要か?」という点は腑に落ちました。

デジタルテクノロジーは、これまで分断されていた「送り手」と「受け手」の関係性を一気に縮めて、場合によっては一体化させてしまったりもします。それによってもたらされる不確実性が常態となっていく社会においては、サービス提供者はユーザーとより近くにいること、時にはユーザーを参加させることすら必要で、そうであることによってより良いサービスを提供できるようになります。デジタルテクノロジーは、その意味では、不確実性をもたらす要因でもあり、同時にソリューションでもありえるということです。

『GDX:行政府における理念と実践』

そして、日本のDXはテクノロジーに焦点が集まりすぎているという指摘や、オーストラリアのニューサウスウェールズ州政府の「デジタル庁」に相当する部門が「カスタマーサービス省」という名称であり、その中には「カスタマーエクスペリエンスユニット」という部門があるという事例も出てきます。面白い。


さて、ここまででICT4Dとの共通点が3つはありました。順番に見ていこうと思います。

ICT4Dとの共通点①:テクノロジー中心じゃない

まずはテクノロジー中心ではないという点。よく「デジタル技術はツール」という話がありますが、DX時代でもそれは同じです。で、そこに更に「デジタル化された社会が前提」という点が加わっています。「ツール」だけでなく「前提」という見方が新しいですが、いずれにしても、テクノロジーが中心ではないという点は共通理解だと感じました。この点は何度もこのブログでも書いているのですが、懐かしい2009年の記事へのリンクと最近の記事へのリンクを載せてみます。

また、このハンドブックでは、DXの取り組みの中でも、システム構築が目的になってしまい、本来の目的を軽視してしまうなど、「ICT4Dあるある」っぽい指摘もされています。

ICT4Dとの共通点②:ユーザーをプロデューサーに

2つ目に思ったのは、ユーザーを単なるサービスの受け手から、サービスの作り手にするという視点。これはICT4Dの教科書でいうところの、「Ladder of ICT-related roles」モデルと共通する考え方。

Source: Heeks, R. (2017). Information and communication technology for development (ICT4D), P57. Routledge.

この点については、以下の投稿でも書いていました。

ICT4Dとの共通点③:ICT4D 1.0から2.0

上記のユーザーの役割の変化の前提あるのが、テクノロジーがサービスの作り手と使い手の境界線を曖昧にしているという点。このハンドブックでは、「デジタルテクノロジーは、これまで分断されていた「送り手」と「受け手」の関係性を一気に縮めて、場合によっては一体化させてしまったりもします。」と書かれています。
これはICT4Dでいうところの、ICT4D1.0からICT4D2.0への変化と同じだと思いました。今の若い人はおそらく「Web2.0」って言葉を知らないかも・・・?と思いますが、当時のWeb2.0の流れから、ユーザーがコンテンツの作り手になれるようになり、さらにサービスの作り手に・・・と発展してきた歴史のことを上記のハンドブックの記載は説明していると言ってもよいと感じます。まぁ、いずれもテクノロジーが社会に及ぼす影響のことを説明しているのだから、同じなのも当たり前ではありますが。

まとめ

以上、このハンドブックを読んでみて、ICT4DとDXの共通点について書いてみました。これ以外にも「アウトプットじゃなくアウトカムを見るべし!」(これはCIPSODARモデルやICT4Dバリューチェーンとあい通じる考え方)など、多くの点で「それなー! σ゚ロ゚)σ」と思える話が沢山ありました。

今も昔も変わらない課題があり、改めてこの分野は、「歴史は繰り返す」ってことなのかもと思いつつ、そうならないようにする努力をしていきたいと思いました。

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